ポール・オースターの小説は「リアル」の一言に尽きる-
痛い、痛々しいほどさらけ出した心理描写、そして思わず吹き出してしまうユーモアも兼ね備えていると思います。寓話のような展開ながら決して説教にはならず、淡々と綴られていくのも特長なのでははいでしょうか。
『偶然の音楽』、実は数年前に半分で読むのをやめていました。今回、読書会を通じて読み終わることができ、映画も観て多くのことを感じ取りました。人間の小さい部分を、ここまで「リアル」に描くことは残酷なようにも思います。一見何の不自由もない、普通に幸せな人間が自分で自分をとことん追い詰めるのです。
その意味は?
答えは「小説だから」かもしれません。小説という形を借りて、現実世界では露わにならない人間の弱さを吐露しているのではないでしょうか。
オースターという作家は感受性の塊のような人だと思います。人生の中で通り過ぎるだけの「偶然」を大切に感じ取り、その意味を考える作業を惜しみません。答えは出なくとも、考えた分だけ個性は強くなっていく・・・興味深い。