2010年7月1日木曜日

『M/Tと森のフシギの物語』

今日は読書会が無事終了。
大江作品は読むのも感想をまとめるのも、そして語り合うのも大変でした。



物語は「M」と「T」の意味を読み知るところから始まります。そして語り手の「僕」が祖母から語り継がれた森の神話めいた村作りの歴史を話し始めると、一気にワンダーランドの扉が開きます。

壊す人・童子・オーバー・オシコメ・リスケ 等々、登場人物(人か神かは分からない)のエピソードは、まるで冒険小説のように勇ましく、怖くて、面白かったです。しかし「面白い」と言っても難解、容易く読み流すことは不可能でした。難しいので必然的に何度も文字を読み返すこととなり「そこが作者の意図?」と思うくらいでした。美しい言葉で語られながらも残酷で、独自の観念を持った日記のような小説です。

そして村の歴史は、国家権力の戦いへと物語を進めます。ここでの祖母や長老の話す「言い伝え」は、村創建の華々しい物語とは違い、影の物語に変わって行くのです。中隊長が、いよいよ村人を追い詰めたあげく自分の任務に疑問を抱くかのように「壊す人」に答えを求め、自ら命を絶つ場面は特に印象的に描かれていました。

最終章の「森のフシギの音楽」では、家族と森の言い伝えの不思議なつながりについて語られています。主人公が祖母から刷り込まれた「魂の再生論」を、ここでは母の言葉によって再度、思い起こされることとなるのです。それこそ「M」の意味するメイトリアーク、そして作者の性格こそが「T」の意味するトリックスターだったのだと読みとることが出来るでしょう。

今回リーダーのKさんには「本当にご苦労さまでした」と言いたいです。長編で難解、私なんてストーリー追うだけでも脳に酸素が行き渡らなくなりそうでした(汗)

読書会自体は作品が難解なだけに内容に細かく触れていくことが出来なかったけれど、それでも頻繁に意見が出て論争を交わせたのだから、かなり充実していたと思います。皆さん優秀で、豊富な知識と貴重な意見を聞くことが出来ました。

『M/Tと森のフシギの物語』読書会、大成功です。